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オランダ農業の歴史


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はじめに:逆境から生まれた不屈の精神と技術


「オランダ農業っていつからこんなにすごいの?」

旅行者にも農業関係者にも、よく聞かれる疑問です。答えは一言でいうと、水との闘いの歴史が農業を鍛えたから。干拓、食料危機、そして科学的農業への進化。オランダ農業は困難を乗り越えるたびに進化してきました。本記事では、その歩みを深掘りしたいと思います。


水と土地をめぐる闘い:干拓から始まる農業


オランダには山がありません。最高地点は南部にあるファールス山で、標高たった323m。オランダの土地は驚くほど平坦です。国土の約1/4は海面下という低地であり、首都アムステルダムやスキポール空港も海抜約マイナス3mに位置します。もし堤防がなければ、国土の大半が海に沈んでしまう土地なのです。


中世から近代にかけて、オランダ人は海と戦いながら国土を拡大してきました。堤防を築き、風車で水を汲み出し、海から土地を奪い返す干拓を粘り強く続けました。まさに「神は世界を創り、オランダ人はオランダを創った」という有名な言葉が示す通り、自らの手で国を造り上げてきた歴史があります。こうして生まれた干拓地は、水はけの良い肥沃な土地となり、農業の基盤が築かれていきました。


チーズ文化と市場の発展


干拓地は湿気が多く牧草の生育に適していたため、オランダでは自然に酪農が発展しました。牛を飼い、牧草を食べさせ、乳を搾る――この流れからオランダは「酪農王国」となり、豊富な牛乳を原料にチーズ生産が盛んになります。エダムやゴーダなど世界的に知られるチーズは16~17世紀頃には主要な輸出品となり、各地の市場を通じて商業ネットワークを広げました。当時のオランダは海運と交易で繁栄した時代でもあり、チーズは重要な交易品だったのです。今でもゴーダやアルクマールのチーズ市は観光名所として有名ですが、もとは地域経済を支える「農業と貿易のハブ」でした。


ゴーダのチーズ市
ゴーダのチーズ市

食料危機が生んだ「科学する農業」


第二次世界大戦末期、オランダは深刻な食料危機に直面します。1944~45年の冬、ドイツ軍占領下で物資を封鎖され、ハンガー・ウィンター(Hongerwinter)と呼ばれる飢餓が発生しました。この冬の飢饉で約2万人もの国民が命を落とし、国民の記憶に強烈な傷痕を残しました。

戦後、「二度と食料で苦しまない国をつくる」という決意が農業政策の核心となります。  政府・研究者・企業がタッグを組み、農業を科学技術で進化させる国家戦略が始動。中心的な役割を果たしたのが、前回のブログでも触れたワーゲニンゲン大学です。同大学は現在では世界有数の農業研究機関として知られ、企業や実験農場と連携して先進技術を生み出す「フードバレー」の中核となっています。この産官学の連携が、オランダ農業の革新を強力に推し進めました。


1950年代以降、本格的に導入されたガラス温室(グリーンハウス)は、オランダ農業のあり方を一変させました。日照が少なく湿潤な気候を逆手に取り、温室内で光・温度・水を人工的に徹底管理することで、年間を通じた安定生産を実現したのです。例えばトマトやパプリカといった作物も、温室なら天候に左右されず大量栽培が可能になりました。その結果、オランダはトマト輸出で世界トップクラスとなり、温室園芸作物が一躍輸出産業として確立されました。


環境政策とサステナブル農業


1990年代以降、オランダ農業はさらに持続可能性へと舵を切りました。農薬や化学肥料の使用削減、水資源の循環利用、工場から出る二酸化炭素の温室への再利用など、環境負荷を減らす取り組みを次々と導入したのです。その結果、前回のブログでもお伝えしたとおり、この20年ほどで主要作物の栽培に必要な水を最大90%も削減し、温室栽培では化学農薬の使用を大幅に減らす離れ業を実現しました。それでも生産量はむしろ増加しているのです。

「効率と持続可能性は両立できる」という思想がオランダ農業の根底にあり、国家的なスローガン「資源を半分で食料を二倍」に象徴されるように、限られた資源で最大の成果を上げる革新的手法が追求されています。


オランダ農業の歴史から見えてくること


  • 干拓で土地を生み出す力: 海と闘い、自力で国土を造り出してきた歴史

  • 酪農と貿易で育まれた農業文化: 乳製品と市場流通が支えた豊かな農業経済

  • 戦後の食料危機がもたらした科学的アプローチ: 飢餓の教訓から生まれた技術革新へのあくなき挑戦

  • 持続可能なシステム: 生産効率と環境保全を両立させた先進モデル


オランダ農業には、困難に直面するたび、それをバネに次の革新へと繋げてきた不屈の精神と知恵がつまっています。


弊社では、このオランダ農業の歴史と進化を学べるミュージアムの見学ツアーも実施しています。歴史を知れば、スーパーに並ぶ農産物への見方も変わり、実際の農場見学もさらに興味深いものとなるでしょう。そしてきっと、日本の未来の農業へのヒントも見えてくるはずです。



ウエストランズミュージアム
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